Eureka

他愛もない毎日のこと、本や書店めぐりの記録

私と書店「蟹ブックス」

本が読めなくなったと思っていた。

以前は、常にバッグに本が入っており、電車を待つホームで、待ち合わせの時間までに入ったドトールで、ちょっとでも時間があれば本を開いていた。

 

それがどうして読めなくなったのか。

今思えば、背伸びして買った難しい本を「せっかくならちゃんと理解したい」とメモを取りながら読むようになり、途中で億劫になったのが始まりかもしれない。

 

気付かない内に、読書を楽しむということが後回しになっていた。

 

そんな折、2022年9月に東京都杉並区高円寺に蟹ブックスという選書型の書店がオープンするとSNSで知る。それは初めて看板が付いたときのツイートで「看板小さすぎたでしょうか?」と写真が添えられていた。

壁に取り付けられた丸い看板には赤い色で「本」とだけ書かれていて、確かに小さいかもしれない。でもその控えめさが「ここだよ、見つけて」と言っているようで良かった。

 

極め付けはお店の名前、「蟹ブックス」。どうして蟹?

後でわかった事だが「重い意味を背負わない、大きなハサミで攻撃しながら横に歩く姿がピースフル」という事で採用されたらしい。

晴れて書店のキャラクターとなった蟹のイラストもかわいい。

立て看板やオリジナルのブックカバー…あの「本」とだけ書かれた丸い看板の反対側にも描かれている。店舗のオープンはまだ先だというのに、もう虜である。

 

更にスマホで蟹ブックスを検索してみる。

花田菜々子さんという方がクラウドファンディングで開店資金を募りオープンさせたという。目標の約5倍の金額が集まったらしい。

 

そもそも、花田さんは書店員として20年の経歴があり、様々な媒体で書評やブックレビューで本を紹介をされてきた方で、『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)という実体験を綴った本を出した有名な方なのだそう。

私が無知なだけで、オープン前からかなり注目されていたのだ。

 

SNSの盛り上がりからオープン直後は混雑するだろうと、確か1、2週間おいて来店したと思う。それでも開店祝いのお花やお客さん、お祝いに駆けつけたご友人や関係者らしき方で店内は賑わっていた。

淡いグリーンの壁、北と東側の磨りガラスの向こうに、まだまだ暑い盛夏の日差しが感じられる。店内にぐるりと配置された書棚、入り口すぐそばのテーブル、レジカウンター前の可動式の本棚には、ジャンルごとに文庫本、単行本がまぜこぜに詰まっている。

 

それまで、私が立ち寄る書店は大型書店が多く、目に入ってくるのは有名な出版社から出ている有名な作家の本だった。

単行本、文庫、新書、雑誌が「今月の新刊」「〇〇賞受賞作品」「〇〇で紹介されました」という取り上げ方で陳列されており、たまに〇〇フェアという形でスペースが設けられ様々な本が集められている。

目的の本があるときに足を運び、ついでに店内を回るというのがパターンとなっていた。

 

蟹ブックスのような書店を、選書型と言うらしい。

書店員が選書した本が新刊、既刊関係なく陳列される。気になる本を手に取ればその隣に関連した本が置いてあり、自然と2冊目、3冊目と手が伸びる。

目的なく立ち寄っても、その時の気分に合った棚の前で足が止まってしまうし、一通り店内を回ったら、最低でももう一周してしまう。

書店全体を書店員の本棚と見ることも出来るかもしれない。

本棚に「この本良かったですよ。もしくはこちらなんていかがですか?」と話しかけられているようで、今までなら手に取らなかった本や作家と出会えることが純粋に楽しい。

 

改めて思う。読書を楽しむということは、本を選ぶところから始まっている。

そして、読書を通して私の中の世界が思わぬ方向にどんどん広がっていくことが分かる。

 

やっと戻って来られた。

読書って楽しい。